『花囲夢』 それは、我が家の屋号から


 うちの近所では、若い人同士は互いを名字で呼び合いますが、年輩の方はそれぞれを屋号で呼び合っています。 これは代々続く家の場合、同じ姓の家が多かったことにも由来すると思いますし、古くからの名字帯刀は許さずという政策にも由来することかも知れません。 うちの場合は「嘉右衛門(かいむ)」ですから「カイム」さんという具合で呼ばれ、年輩の方からは「野口」さんとは呼ばれません。 例えば次男坊が家を建てると、うちの方では「新宅を出した」といわれ「カイム新宅」のようになります。 地方によっては、本家分家と呼ぶところもあるようです。

 私の家のある布佐台地区には、野口という姓が数件あります。 例えば、私の集落から少し離れたところの中里(なかざと)・冲田(おきた)という地区では、田口姓ばかりだったりするわけです。 そんな理由から、互いをわかりやすく呼び合うということで、屋号で呼ぶようになったのだろうと思います。

 商人が多い地域では「かごや」とか「あひるや」とか、職業から転じた屋号が多いのですが、 うちの場合は、先祖の名前から来ているもののようです。 例えば、お隣りだと「りぜむ」さんですが、これは「利左ェ衛門」から来ていると考えられます。 ほかには「にいむ」さんだと「仁右衛門」からという具合です。

 初代嘉右衛門から数えて私で7代になります。初代嘉右衛門が他界したのが文久2年といいますから、嘉右衛門は、文化・文政・天保・弘化・嘉永・安政・万延・文久と江戸時代の激動期を生きていたことになります。 以降、2代目嘉右衛門→徳次郎→嘉平治→直吉→忠吉→忠司と、遠く文化の時代から平成の世まで受け継がれてきた重みが屋号の中にはあります。 私が直接知るのは祖父の直吉までです。 嘉平治の時代からはお茶を始めたと聞いています。ですからうちの茶園も90年近い歴史があることになります。お茶は私で4代目となりました。

 ホームページを作るにあたって、この屋号を大事にしようと思い、タイトルに使おうと決めた次第です。 デザイン時に本来の「嘉右衛門」では堅すぎると思い、他の漢字をあてようとしましたが、良くある熟語では「カイム」=「皆無」となってしまい、これでは仙人になってしまいそうなので、いろいろと考えたあげくに『花囲夢』という字をあててみました。

 私も含めて、家族がみんな花の栽培が好きでしたから「花」の字はすぐに浮かびました。多くの人に夢を与えたいと思い「夢」の字が出てきました。 「囲」の字は、囲炉裏端や井戸端会議のような和気藹々(わきあいあい)とした人間関係を築きたくて選ぶことにしました。


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